紙のみぞ知る

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【お目汚し】黒いミニバンのこと【怪談】

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※ この怪談はフィクションです。

 

 

 

 

 

 

 

私の7つ違いの弟が体験したお話です。

 

当時専門学校に通っていた弟は、新聞配達のバイトをしていました。

朝5時までに配り終わらないと決められており、弟の配達エリアで全てさばくには2時間ほどかかるため、バイトの始まりは午前3時とかなり早い時間。特に天気が悪いと、雨に濡れないように新聞にビニール袋をかぶせる作業があるため、その時はもっと早く集配所まで到着し事前準備をしないと間に合いません。

 

これからお話する事件に遭遇した弟がバイトに行った日も、今にも降り出しそうなじめっとした夏の熱帯夜でした。

 

朝には雨が降る予報だし、今日も新聞をビニール詰めする作業があるんだろうな、かったるいな。

午前2時過ぎ。おそらく事前作業があるため、いつもよりも早めにバイト先へ歩きながら、弟はそんなことを考えていました。

自宅から集配所まではおよそ1kmほどで歩けるほどの距離。本当は自転車やバイクを使いたいところなのですが、集配所の専用駐輪場が非常に狭いこともあり、よほど遅刻しそうな時でない限りはいつも徒歩で通っています。夜も深く、辺りに人気は全くありません。汗のせいで服がじっとりと体にまとわりついてきました。

 

交差点を右にまわり、灯りの少ない細道に入り、バイト先まであと数分という道の途中で事件は起きました。弟の左側を走ってきた黒いミニバンが急に停まったのです。

なんだろう、この幅のせまい道路でUターンでもするのかな、などと思っていたら、ミニバンから覆面をかぶった四人の男が下りてきました。その男たちはすぐさま弟の方に向かってきて、一瞬で周りを囲んでしまったのです。そして男のうちの一人が弟を羽交い絞めにしました。ものすごい力で締めつけてきます。

 

「うわ、やめろ!」

不意の出来事に驚き、弟は思わず叫びました。

 

すると男は急に羽交い絞めを解いて、他の三人と一緒にミニバンへ駆けていきます。

四人全員が乗車すると、ミニバンは何事もなかったのように走り去ってしまいました。

弟はしばらくあっけにとられていましたが、羽交い絞めにしてきた男がかたことの日本語でこう呟いていたのを聞き逃しませんでした。

 

「ちっ、女じゃねえのかよ」

 

その日の弟は、肩まで伸ばした長髪を後ろで束ね、黒いTシャツにスキニージーンズ姿。私と違いかなり華奢な体つきで、背も165cmとやや小柄なほうなので、暗いところでは確かに女性と見間違えるかもしれません。

 

あの男たちは俺を女だと勘違いして襲ってきたのか。

……もし俺が男ではなく女だったら、どうなっていただろう?

 

決して寒くは無いはずなのに、弟は思わず身震いしました。